a photo a day

                            

墓活(ぼかつ)

 墓活(ぼかつ)。これは赤瀬川原平さんが創造した新語で、
定義は「墓についてあれこれ考える時期に差し掛かった人々が行う、お墓をめぐる諸活動」。
今年の3月には彼の『「墓活」論』という本も出ました。
私は今日、この墓活について書こうと思います。突然だけど。
あ、別に死にかけてるわけじゃないですからね。ご心配なく。



 4日くらい前かな、師匠が電話でこう言いました。
「人形町の仕事場、空っぽにするからさ。欲しいもの取りに来い。まずアンタ優先。いつ来る?」

 何じゃそりゃ!!!!!! 
まったく、何じゃそりゃ!!!!!!ですよ。

 思えばナオイカメラサービスが店を閉めてから、何年になるんだろ。
6年かな、7年かな。
糖尿病で視力が落ち、修理の仕事を断念してからというもの、師匠は心にポッカリ穴を空けたままでした。
店も修理道具もカメラも、ホコリをかぶったまま、ずっと置き去りだったんです。
酒を飲むといつも「いろんなもの、整理しなきゃとは思うんだけどね…」と言う。
でも悔しそうで寂しそうで未練だらけで、まだまだ整理には程遠いとばかり思っていました。

 金曜日に行ってみると、なんだかここ何年も見たことのない晴れ晴れとした顔。
いきなり「186ページ」と言って本を手渡され、見ると赤瀬川さんの『「墓活」論』でした。
 N井さんから手紙がきた。
 N井さんは人形町に仕事場を構えていたカメラ修理技師で、この世界でぼくがはじめてお付き合いをした人だ。

そのページには、こういう書き出しで直井師匠のことが書かれていた。
(物品類の最期の落ち着き場所をどう考えればいいのかについての章、「カメラの墓活が始まった」の中)



 一昨年のある日のこと。
「師匠、もし師匠がつくったステレオカメラのコレクションをカメラ博物館が収蔵してくれるって言ったら、
どうします?」って私は聞いてみました。
糖尿のくせに毎日浴びるほど酒を飲み、死にたがってるようにしか見えなかったから
少しでも元気になってもらいたくて、いろいろ考えた末の決断でした。
師匠はすでに呂律もあやしかったけど、「そんなことあるわけないね。夢みたいな話だよ」という返事だったのを
覚えています。
私はほとんど言い掛かり的に「じゃ、夢じゃなかったらO.K.ってことね」と了承を取りつけ(笑)
数日後にはもう速攻で日本カメラ博物館に電話するほどの無茶をしました。
それでもカメラ博物館の重鎮、島さん(去年、他界されました)が、この突然の提案を
「私も直井さんのファンですから。本当にありがたいお話です。ぜひ収蔵させて下さい。せっかくですから、
特別展を企画させていただきましょう」と丁寧に受け入れて下さったんです。
それからはあっという間。
師匠がつくったステレオカメラたち約20台には、日本カメラ博物館という千代田区1丁目の一等地が
終の棲家として与えられ、特別展の一般公開も大成功に終わりました。
この時のクラシックカメラファンの熱狂ぶりを見て
私は改めて師匠が築いてきた世界のレベルの高さに感服させられたのを覚えています。

 赤瀬川さんが「墓活」の成功例としてかかれているのは、この時のことでした。
展示が終わり、まもなくして島さんが亡くなられ、ここ1年ほどの師匠はまた無茶酒に逆戻りしていたの
ですが、この本を手にしたことで、ずっと心を覆ってきた重くて暗い何かを、パッと一瞬にして吹き飛ばす
ことができたのではないでしょうか。
師匠はとても明るい声で「今日から本格的に墓活。道具もカメラも全部、大切にしてくれる人に譲る」と
ついに言ってくれました。




 私、道具はホントに全部もらっちゃいました。
あと、以前からずっと狙っていた(笑)マーキュリーと。
でも貴重なカメラはほとんど残してあります。
(長年にわたって師匠を慕ってこられたファンの方々は、私と同じような気持ちで形見分けを望んでおられる
でしょうから。)
 墓活したからって死ぬわけじゃないのに、
「悪意で言い掛かりをつける者や、なんとか評判を落とそうとする者も中にはいるだろうけど、そんなもんは
いっさい気にするな。自信もってやってけ。」なんて言うもんで、不覚にも私は目がうるうる。
泣かす気かっ!

 でも正直なところ、墓活って、泣ける。
誰かに何かを託されるのって、感動する。
がんばろうって思う。
師匠はいつも、他で断られたような厄介なカメラばかり引き受けていた。
それを横から見ていて、そこまでやっても誰にも理解してもらえないだろうのに、って思っていた。
でも近頃の私は、やっぱり似たようなことをやり始めている。
正確に言えば、似たようなところを目指している。

 死ぬときに何を残すかを考えるのではなく、死ぬ前に何を託すかが墓活なんだと
私はこの大した爺さん2人から教わった。
きっといつか、似たような墓活しそうだな、私も。





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  1. 2012/09/29(土) 15:29:32|
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Photo-eye


Photo-eye は、アメリカのサンタフェにあるアート写真専門ギャラリーです。
彼らが発行しているアートフォト専門誌『Photo-eye』は、アメリカ国内ではもちろん
ヨーロッパでも知名度が高く、定評もあります。
私もアメリカに暮らしていた時は買ってました。
…と、しっかり前置きしておいて…さあ自慢するぞ~

今日配信された Photo-eye のニュースレターに、私の本が「今週の新着セレクション」として
紹介されてま~す。



NEW ARRIVALS + 09.01.12
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this week's selection of New Arrivals

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 〈ディレクターのレヴュー〉
Ikuo Salley's Whiskey Drinking Troubadour showcases the photographer's thoughtful blend of conceptual art and street photography. Setting out to denounce social media and a false sense of communication via the Internet, Salley took to the streets of Hollywood to capture the essence of 'real communication,' photographing prostitutes addicts and the homeless. Here we see grainy black-and-white images that seek to expose life's hardships while also giving an honest and engaging take on the human condition.

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  1. 2012/09/02(日) 11:23:07|
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